🎾肘の外側がズキッ?それ、テニス肘かも|整形外科医がやさしく解説

医療

はじめに

「ラケットを振ると肘の外側がズキッと痛む」
「タオルを絞ったときに肘がツーンとする」

そんな経験はありませんか?
その症状、もしかするとテニス肘(上腕骨外側上顆炎)かもしれません。

でもご安心ください。テニス肘は、正しく治療すればちゃんと良くなるケガなんです。
この記事では、整形外科医の視点から、テニス肘の原因や治し方、リハビリや予防法まで、できるだけわかりやすくお話しします。

テニス肘ってどんなケガ?

テニス肘という名前ですが、実はテニスをしていなくてもなる人はたくさんいます。
肘の外側にある腱(けん)が、繰り返しの動きで負担がかかって痛くなる状態なんです。

たとえば…

  • テニスのバックハンド
  • ゴルフのスイング
  • パソコンのタイピング
  • 重いフライパンを振る料理

…などなど、手首や肘をたくさん使う人に起こりやすいんです。

どんな人がなりやすい?

テニス肘は特に30〜50代くらいのスポーツ愛好家や職人さん、事務仕事の方に多いです。
もちろん、テニスやゴルフなどのラケット・クラブスポーツをされている方には要注意。

特にこんな方、当てはまりませんか?

  • スイングが手首に頼りがち
  • 一日中マウスやキーボードを操作
  • 子どもをよく抱っこする

肘の外側が疲れているサインかもしれませんよ。

どんな症状が出るの?

テニス肘は主に以下のような段階で進行し、症状の重さによって治療方針が変わることもあります。

重症度分類(一般的な臨床的分類)

  • 軽度:動作時にのみ肘の外側に違和感や痛みを感じる。日常生活にほとんど支障なし。
  • 中等度:荷重動作や軽作業でも痛みを感じる。家事や仕事に影響が出始める。
  • 重度:安静時にも痛みを感じる。睡眠障害や握力の低下がみられる。

外科的分類(Nirschl分類など)

  • ステージ1:急性の筋肉疲労、微細損傷。炎症所見はなし。
  • ステージ2:腱の微細断裂と修復過程に炎症反応あり。
  • ステージ3:腱の変性が進行し、治癒しにくい状態。肉芽組織や瘢痕形成がみられる。
  • ステージ4:腱付着部の断裂、変性腱の大量存在。手術適応が検討される段階。

✔ こんな動作で痛みが出る方は要注意:

  • ドアノブをひねる
  • タオルを絞る
  • ペットボトルのフタを開ける
  • ラケットを振る
  • 椅子を持ち上げる

日常の何気ない動きでも痛みが出る場合は、テニス肘の可能性があります。

病院ではどんな検査をするの?

診察では「Thompsonテスト」「Chairテスト」などの誘発テストを行います。

さらに、超音波検査(エコー)では腱の肥厚や石灰化などを確認できます。MRIは難治例での使用が一般的です。

テニス肘の治療法をもっと詳しく解説

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の治療は、大きく分けて以下の3つに分類されます:

  1. 保存療法(非手術的治療)
  2. 注射療法(ステロイド、PRPなど)
  3. 手術療法(難治性・長期例)

1. 保存療法|まず最初に行うべき治療

ほとんどのテニス肘は、保存療法で改善が期待できます。基本的には痛みを出す動作の回避腱の機能回復を目指したリハビリが中心です。

🧊 安静・アイシング

  • 痛みのある動作はできるだけ避ける
  • 1回15~20分、1日2〜3回のアイシングで炎症を軽減

💊 薬物療法

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服または外用
  • 湿布やトピカルゲルの使用

🦾 装具療法(エルボーバンド)

前腕の筋腱移行部に圧を加えることで、牽引力を分散し痛みを軽減します。

【文献】Struijs PA, et al. “The effectiveness of braces in the treatment of lateral epicondylitis.” Am J Sports Med. 2001;29(5):622–625.

🏃‍♂️ 運動療法・リハビリ

  • エキセントリック運動(腱の再生刺激)
  • 前腕伸筋群・屈筋群のバランスを整えるトレーニング
  • 手関節・肘・肩甲帯を含めた運動連鎖の見直し

【文献】Stasinopoulos D, Johnson MI. “Effectiveness of eccentric training in lateral elbow tendinopathy.” Phys Ther Rev. 2007.

🤝 理学療法士との協業

プロの理学療法士と連携することで、フォーム指導や筋力バランスの調整がより効率的になります。


2. 注射療法|痛みが強い場合の補助療法

💉 ステロイド注射

  • 短期的な鎮痛効果は高く、即効性がある
  • ただし、12ヶ月以降では再発率が高く、効果が持続しにくい

【文献】Coombes BK, et al. “Corticosteroid injections, physiotherapy, or wait-and-see policy for lateral epicondylitis.” Lancet. 2010;376(9754):1751–67.

🩸 PRP療法(多血小板血漿注入)

  • 自分の血液を使い、腱の修復を促す治療
  • 長期的にはステロイドより効果が持続する可能性
  • 保険適用外で高額(約2〜5万円)な点に注意

【文献】Peerbooms JC, et al. Am J Sports Med. 2010;38(2):255–62.

👨‍⚕️ その他の注射

  • ヒアルロン酸注射やボツリヌス毒素なども研究段階で報告あり
  • エビデンスは現時点で不十分

3. 手術療法|6ヶ月以上の保存療法で改善しない場合に

以下のようなケースで手術を検討します:

  • 保存療法を6ヶ月以上継続しても改善しない
  • 腱の断裂や著明な腱変性を画像で確認
  • 職業やスポーツ復帰の希望が強い

🔧 手術法の例

  • Nirschl法:変性腱の切除と骨表面の滑膜除去
  • ドリリング法:骨表面に穴を開けて腱付着を再形成
  • 内視鏡手術(関節鏡)による低侵襲アプローチ

【文献】Solheim E, et al. “Surgical treatment of lateral epicondylitis: a prospective, randomized, double-blind study.” J Shoulder Elbow Surg. 2011;20(6):914–919.

🕒 術後の流れ

  • 1〜2週間ギプスや装具で安静
  • その後、段階的に可動域訓練・筋力強化を開始
  • スポーツ復帰までは3〜6ヶ月が目安

まとめ|保存療法+適切な運動が治療の基本

テニス肘は、多くの場合保存療法とリハビリで改善が可能な疾患です。

ステロイド注射やPRP療法はあくまで補助的であり、最も大切なのは「腱に負担をかけない生活と回復を促すトレーニング」です。

状態に応じて整形外科での診断と、理学療法士と連携したリハビリをおすすめします。

家でもできる!リハビリ方法

エキセントリック運動は腱障害の改善に最も効果的とされる運動法です。

ダンベルを使ったリハビリ例:

  1. 軽いダンベル(500mlペットボトルでも可)を持つ
  2. 手首を反らす動作をサポートしながら上げる
  3. 戻す(下げる)動作だけ自分の力でゆっくり行う

週3〜5回、1日15回×3セット程度が目安です。

どうすれば再発を防げる?

✔ フォームの見直し

  • 手首を使いすぎないスイングに修正
  • 体幹主導の動きに変える

✔ ラケットやグリップの見直し

  • 太さ、テンション、重さが肘に合っているか確認
  • コーチや理学療法士のアドバイスも有効

まとめ|テニス肘は正しく治療すれば改善します

テニス肘は「よくあるケガ」ですが、慢性化や再発を防ぐには早期の対処継続的なケアが重要です。

痛みが続く場合は、無理をせず整形外科で診てもらいましょう。

🩺整形外科医からのひとこと

痛みの原因に向き合うことは、スポーツパフォーマンスの向上にもつながります。
ひとつずつ身体と向き合いながら、長くスポーツを楽しんでいきましょう!

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