「手がしびれるのは首が原因かもしれません」——頸椎の変形や椎間板のトラブルによって手にしびれや痛みが出ることがあります。中高年女性にも多い「頸椎由来のしびれ」について、原因、症状、検査法、治療法を整形外科医が詳しく解説します。
頸椎由来のしびれとは?
頸椎は首の7つの骨(頸椎)で構成され、その間にある椎間板や周囲の靭帯がクッションや支持の役割を果たしています。 加齢や負担により変形や椎間板の突出が起こると、脊髄や神経根が圧迫され、首の痛みだけでなく手や腕のしびれ・痛みが生じることがあります。
このような症状は「頸椎症性神経根症」「頸椎椎間板ヘルニア」などと呼ばれ、特に中高年に多くみられます。
原因と病態
主な原因疾患
- 頸椎症性神経根症:加齢による椎間板の変性や骨棘形成で神経根が圧迫
- 頸椎椎間板ヘルニア:椎間板が後方に突出し、神経を圧迫
- 頸椎症性脊髄症:脊髄自体が圧迫され、手足のしびれ・巧緻運動障害・歩行障害を起こす
リスク因子
- 加齢(40歳以降で増加)
- 長時間のデスクワークやスマホ使用
- 姿勢不良(猫背、ストレートネック)
- 外傷(むち打ちなど)
症状
神経根症の症状
- 片側の腕や手のしびれ・痛み
- 特定の指に放散するしびれ(例:親指、人差し指、小指など)
- 頸を後ろに反らすと悪化(スパーリング徴候)
脊髄症の症状
- 両手のしびれや巧緻運動障害(ボタン掛けが難しいなど)
- 歩行障害、階段でのふらつき
- 排尿障害(重症例)
手のしびれが首に原因している場合、症状が左右非対称であったり、首の動きで変化することが特徴です。
検査と診断
身体診察
- ジャクソンテスト:首を後屈・側屈させてしびれ誘発
- スパーリング徴候:首を圧迫すると症状増悪
- 握力低下や腱反射の異常
画像検査
- X線:椎間板狭小化、骨棘形成の確認
- MRI:神経や脊髄の圧迫を直接評価でき、診断の決め手
- CT:骨棘や骨の変形をより詳細に評価
神経生理学的検査
- 神経伝導検査・筋電図:末梢神経疾患との鑑別に有用
治療法
頸椎由来のしびれは、症状の程度や原因に応じて保存療法から手術療法まで幅広い選択肢があります。
保存療法
- 安静・生活指導:姿勢の改善、デスクワーク環境の見直し
- 薬物療法:消炎鎮痛薬、神経障害性疼痛薬(プレガバリン等)、ビタミンB12
- 理学療法:牽引療法、温熱療法、ストレッチ
- 装具療法:頸椎カラーで一時的に固定
神経ブロック療法
痛みが強い場合、神経根ブロック注射や硬膜外ブロックが行われ、症状の緩和に有効です。
手術療法
重度の神経圧迫や脊髄症では外科的治療が必要となります。
- 椎間板摘出術:突出した椎間板を除去し、神経の圧迫を解除
- 椎弓形成術:脊髄の圧迫を広範囲に解除(脊髄症に適応)
- 前方固定術:不安定性のある場合に骨を固定
多くは症状の改善が得られ、特に早期手術例では予後良好とされています。
日常生活での予防と工夫
- 長時間のデスクワークでは1時間に1回ストレッチを行う
- スマホは目の高さに近い位置で使用し、首を下げすぎない
- 枕の高さを調整し、首に負担をかけない
- 適度な運動(ウォーキング、肩・首のストレッチ)で血流改善
まとめ
- 頸椎由来のしびれは頸椎症や椎間板ヘルニアで起こる
- 首の動きで悪化・特定の指に放散するしびれが特徴
- 診断にはMRIが最も有用
- 治療は保存療法→ブロック→手術と段階的に行う
- 生活習慣の改善で再発予防が可能
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参考文献
- 日本整形外科学会「頸椎症」公式サイト
- Fehlings MG, et al. Cervical spondylotic myelopathy: diagnosis and management. Neurosurgery. 2010.
- Rhee JM, et al. Cervical radiculopathy. J Am Acad Orthop Surg. 2007.
- Matsumoto M, et al. Surgical outcomes of cervical laminoplasty for patients with cervical spondylotic myelopathy. Spine. 2012.
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。症状が続く場合は放置せず、整形外科専門医を受診してください。
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