人工膝関節置換術とは?〜膝の痛みから解放されるために〜

膝の痛みが日常生活に大きな影響を与えると、歩行や階段の昇り降り、座ったり立ち上がったりすることすら困難になります。膝の痛みを引き起こす原因はいくつかありますが、重度の膝関節疾患に対して行われるのが人工膝関節置換術(TKA: Total Knee Arthroplasty)です。この手術は、痛みを和らげ、膝の機能を回復させる効果が期待できるため、多くの患者さんにとって有効な治療法です。

今回は、人工膝関節置換術の適応となる疾患、その種類、そして術後のリハビリについてわかりやすく説明していきます。

人工膝関節置換術の適応となる疾患

  1. 変形性膝関節症(OA:Osteoarthritis)
    変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減ってしまうことで発生します。加齢や長年の使用によって軟骨が徐々に損傷し、骨同士が直接擦れ合うことで痛みが生じます。この病気は主に50歳以上の高齢者に多く見られ、進行するにつれて膝の変形や可動域の制限が強くなります。
  2. 関節リウマチ(RA:Rheumatoid Arthritis)
    関節リウマチは、免疫システムが自分の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患です。この疾患は関節に炎症を引き起こし、膝を含む複数の関節にダメージを与えます。膝関節が破壊されることで強い痛みや変形が進行し、日常生活に支障をきたすことがあります。
  3. 外傷性関節症
    外傷や事故により膝関節に大きなダメージを受けると、外傷性関節炎を発症することがあります。膝の骨や軟骨、靭帯が損傷し、関節が正常に機能しなくなることで、痛みや腫れ、可動域の制限が生じます。
  4. その他の疾患
    その他にも、先天性の膝関節疾患や骨壊死などが原因で人工膝関節置換術が必要になる場合があります。いずれの場合も、保存療法(薬物療法やリハビリテーション)で改善が見込めない場合に手術が検討されます。

人工膝関節置換術の種類と特徴

人工膝関節置換術には、膝関節の状態や疾患の進行度に応じていくつかの種類があります。ここでは、主な分類とその特徴について説明します。

  1. 人工膝関節置換術(TKA: Total Knee Arthroplasty)
    全人工膝関節置換術は、膝関節の全ての部分(大腿骨、脛骨、膝蓋骨)を人工物に置き換える手術です。変形や損傷が膝関節全体に及んでいる場合に行われ、関節の可動域や痛みの改善が期待できます。金属やポリエチレン製のインプラントが使用され、耐久性が高く、10〜20年程度機能が保たれることが多いです。

特徴:
全関節の置換が行われるため、膝全体の痛みが軽減される。
手術後の回復には数週間〜数か月かかるが、長期的に高い効果が期待できる。
重度の変形や関節炎の場合に適応。

  1. 単顆人工膝関節置換術(UKA: Unicompartmental Knee Arthroplasty)
    単顆人工膝関節置換術は、膝関節の一部分(通常は内側または外側のどちらか)だけを置換する手術です。関節の一部のみ損傷している場合に選択されることが多く、全膝置換よりも侵襲が少ないのが特徴です。

特徴:
膝関節全体の置換を避け、痛みの原因となっている部分だけを治療できる。
手術時間が短く、回復も比較的早い。
若年者や活動量の多い患者に適している場合が多い。

人工膝関節置換術の術後のリハビリテーション

人工膝関節置換術後のリハビリテーションは、膝の機能を取り戻すために非常に重要です。リハビリを正しく行うことで、膝の可動域を広げ、筋力を回復し、再び日常生活に戻ることができます。ここでは、詳しくリハビリの各段階や具体的な方法について説明します。

  1. 術後早期(術後1〜2日)
    目標:早期の動きの回復と合併症の予防

術後すぐに始めるリハビリは、血栓症や関節硬直を防ぐために重要です。この段階では、以下のリハビリが行われます。

足首の運動:足首を上下に動かす「足関節ポンプ」運動で、血液循環を促進し、血栓のリスクを減らします。
膝の軽い曲げ伸ばし運動:膝の動きを回復するために、理学療法士の指導のもとで膝を少しずつ曲げ伸ばしします。痛みがある場合は、無理をしない範囲で行います。
歩行訓練:術後24〜48時間以内には、歩行器や杖を使って少しずつ歩行を始めます。重力をかけすぎないよう注意しながら、膝に適度な刺激を与えて回復を促します。

  1. 入院期間(術後1〜2週間)
    目標:膝の可動域を拡大し、歩行能力を向上させる

術後1週間から2週間にかけては、より積極的なリハビリが行われます。この期間中に以下のトレーニングが実施されます。

膝の曲げ伸ばし訓練:膝の可動域を広げるため、徐々に膝を90度以上曲げることを目指します。座った状態や寝た状態で、理学療法士の指導のもと、膝をできるだけ動かします。
歩行練習:歩行器や杖を使って少しずつ歩く距離を伸ばします。最初は短い距離から始め、徐々に長距離歩行を目指します。
筋力トレーニング:特に太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛えるトレーニングが重要です。膝を伸ばす力が弱いと、歩行や階段の昇降が難しくなるため、この筋肉を重点的に鍛えます。

  1. 退院後のリハビリ(術後2週間〜6週間)
    目標:膝の安定性と筋力の向上、自立した日常生活の確立

退院後もリハビリは継続され、自宅や外来でのリハビリが中心になります。膝を動かし続け、日常生活での活動範囲を広げることが大切です。

自宅でのリハビリ:階段の昇降や椅子からの立ち上がり、車の乗り降りなど、日常生活の動作に応じたリハビリが行われます。膝を曲げ伸ばしする運動や、軽い筋力トレーニングも継続します。
膝の可動域訓練:膝の曲げ伸ばしの角度をさらに大きくすることを目指します。日常生活では、膝が120度程度まで曲がることが理想的です。この段階では、膝をもっと深く曲げる訓練が必要です。
筋力強化:スクワットや脚の持ち上げ運動(レッグリフト)など、下肢の筋肉を強化するトレーニングを継続します。特に大腿四頭筋やふくらはぎの筋肉を鍛えることが、安定した歩行に繋がります。

  1. 中期リハビリ(術後6週間〜3か月)
    目標:完全な膝機能の回復とスポーツ活動への復帰

術後6週間を過ぎると、膝の機能はさらに回復し、日常生活の動作もスムーズになります。ここからは、さらなる筋力強化や持久力の向上が求められます。

バランストレーニング:バランスを取るためのトレーニングを行います。片足立ちや、バランスボードを使った訓練により、膝の安定性を高めます。
有酸素運動:歩行や水中運動、エアロバイクなど、膝に負担をかけずに有酸素運動を取り入れることが勧められます。これにより、心肺機能も高められ、全身の回復を促します。
柔軟性の向上:ストレッチを続け、膝の柔軟性を高めることが大切です。膝の可動域を保ち、長期的に痛みを予防します。

  1. 長期リハビリ(術後3か月以降)
    目標:日常生活や軽度のスポーツ活動への完全な復帰

術後3か月以降、ほとんどの患者さんが日常生活に復帰できるようになります。この段階では、膝の機能を維持し、さらに向上させることが重要です。

定期的な運動:筋力と柔軟性を維持するために、定期的な運動が推奨されます。ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどが膝に優しい運動です。
スポーツ復帰:低負荷のスポーツ(ゴルフや水泳、軽いハイキングなど)は、術後の回復が進めば可能です。ただし、膝に強い負担がかかるスポーツ(ランニングやスキー、バスケットボールなど)は、医師と相談のうえ慎重に判断する必要があります。

まとめ

人工膝関節置換術は膝関節痛で悩んでいる患者さんにとって、とても有用な治療です。

しかし、手術をして治療が終了するわけではありません。術後の継続的なリハビリが、より質の高い生活を取り戻せることにつながります。

また、全ての患者さんに手術ができるわけではありません。合併症や関節症の進行度によって手術ができない場合があります。手術を希望される際は、主治医と十分相談したうえで行っていくほうがよいでしょう。

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